炭火で焼いた直径20センチ厚さ3センチのレアのステーキ。
(2ポンドだから・・・約1・くらいかな)
直径15センチの深さ5センチのボウルに山盛りのサラダ。
おとなの握りこぶしより大きいベイグドポテト。
直径22センチの深皿にたっぷり入ったスパイシーなチリビーンズ。
そしてパンにアイスティー(おかわりもできる)・・・・
以上で12ドル99セント(約1500円) 激安である。
アリゾナ州ツーソンという砂漠の町のステーキ屋のはなしである。
このレストランは「カウボーイ」をテーマにした、テーマレストランで、
インテリアは古い西部劇映画によくでてくる酒場やホテル、
銀行のイメージで創ってある。
ウエイトレスやウエイターの制服も、それっぽい格好をしている。
その他細かいところまで凝りに凝りまくっているのである。
一歩店内に入った瞬間から別世界に入り込み、
雰囲気を盛り上げ、お客をしらけさせない工夫がしてある。
アメリカ人のサービスやもてなしに対しての考え方がいたるところにに見られる。
そして12ドル99セント。
はやらないわけがない。とても混んでいる。
300席くらいはありそうなレストランだが、たくさん待っている人もいる。
しかし、このレストランにはもっと驚くべきことがある。
それは・・・
天井からところ狭しとぶら下がっている、大量のネクタイ。
たぶん数千本はあるだろう、いやもしかすると万単位かもしれない。
店中の天井に、色とりどりのネクタイの残骸がぶらさがっているのである。
それぞれに、手書きの名前と日付が書き込まれた名刺大の紙がピンで留まっている。
なにも知らされずに初めて行った客にとってその状況は、
驚きというよりも恐怖さえ感じてしまうほどの数なのだ
(初めて行ったとき私はそうだった)。
今までの自分の常識を超えた状況になにがなんだかわからなくなってしまうのだ。
しかしその謎はすぐに解決された。
白いウエスタンハット、白いブーツ、ジーンズ姿の美人ウエイトレスが、
大きなベルを店内に響きわたるようにカランカランといわせながら、
ひとりのお客さんのところに行った。
ウエイトレスはその客のネクタイを持ち上げる。
店内の客は全員注目している。
彼女は「カウボーイなのにネクタイなどをしている・・・」
というようなことを言うと、笑顔のまま
いきなりそのネクタイをハサミで切ってしまったのだ。
切ったネクタイを右手で高く掲げると、店中の客が全員拍手をし、
ネクタイを切られた初老の紳士はニコニコして
ちょっと恥ずかしそうに片手をあげている。
たぶんその老人の誕生日かなにかの特別な日なのだろう。
孫たちもうれしそうだ。
カウボーイのレストランには、ネクタイなどという
ナンパなものは似合わないということなのだ。
この「ネクタイ切り」をイベントとして、実に上手くショーにしている。
お客の方も心得ていて、わざと切られてもいいネクタイをしてきて、
それに参加するわけである。
そして12ドル99セント・・・激安だよな〜
内外価格差をしみじみ感じながら、美味しいステーキをたらふく食べた。
アリゾナのツーソンは太陽も激安である。
炎天下、気温は42℃に達していた。しかし、少しも汗はかかない。
陽にあたっていると、冗談みたいだが、チリチリと音がしそうである。
でも日陰は涼しいのだ。
日本の夏、特に東京の夏にはうんざりを通り越して
気が狂いそうになった私も、ツーソンの太陽はいさぎよくて気もちが良い。
湿度が限りなくゼロに近いのではないだろうか。爽快!
プールサイドで身体を灼き、限界になったところで水に飛び込む。
水からあがると肌寒い・・・という感じである。
ツーソンは11月から3月頃までがベストシーズン。
そう、避寒地なのである。
だから、当然真夏の8月なんかはシーズンオフになる。
暑いときに砂漠の町なんかには普通の人は訪れないのだ。
だからホテルも安い。プールつきのオールスイート超一流リゾートホテルだって、
一泊80〜100ドルくらいなのである。
8月のツーソン出張の時、私はプールサイドで
キンキンに冷えたアイスティーを飲みながら、
東京で汗をながしている人たちのことを思い、うしろめたい気もちになった。
そして、このことは絶対に口外しないようにしようと、決心したのだった。
今私は、有楽町の百貨店の1階にあるコーヒーショップで、
アリゾナの信じられないくらい青い空や電柱のように高いサボテン、
プールの水の感触、そしてあの大きなステーキを思い出しながら、
1杯1000円のアイスコーヒーを飲んでいるのである。
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