『富嶽はなぶさ』の料理
先週の木曜日くらいから、ずっとこの伊豆長岡温泉に滞在しています。
今回お世話になっている『富嶽はなぶさ』は温泉も本当にいいのですが、料理がとても美味しいんです。夕食も朝食も、すべての料理を一品一品、丁寧に手作りでつくってくださっています。
例えば、伊豆の生山葵を使った「いずまぶし」というご飯や、近所の川で育った鮎が一匹丸ごとお刺身になって出てきたりと、ここでしか出会えない一皿ばかり。

鮎の姿づくりのお刺身
一口食べるごとに、僕が強く感じたのは「これはただ料理が美味しいというだけではないな」ということでした。

『富嶽はなぶさ』の朝食
ガストロノミーとは?
昨今「ガストロノミー」という言葉を耳にする機会も増えましたが、まさにその本質がここにあります。
ガストロノミーとは、単なる「美味しい食事」ではなく、その土地の風土や歴史、自然の恵み、そして人の営みといった「文化そのもの」を料理を通じて表現する体系のことです。
ガストロノミー(Gastronomy)は、日本語では「美食学」や「食文化」と訳されることがあります。でも、「美食」という言葉から、高級レストランや贅沢な料理だけを想像すると少し違います。
本来のガストロノミーは、料理を入口にして、その土地の自然、歴史、暮らし、人の営みまで考えるものです。
たとえば、「北海道の海鮮はおいしい」これは情報です。
でも、
なぜ、この海でこの魚が獲れるのか。
なぜ、この季節がおいしいのか。
地域の人は昔からどうやって食べてきたのか。
誰が獲り、誰が料理しているのか。
そこまで知ると、魚は単なる食材ではなくなります。地域を知るための物語になります。
これからの観光では、ここがとても大事になってくると思います。
なぜなら、情報そのものは、どんどん簡単に手に入る時代だからです。
AIに、「北海道のおいしい料理を10個教えて」と聞けば、すぐに答えが出てきます。おすすめレストランも、名物料理も、口コミも、調べようと思えばいくらでも調べられる。
だからこそ、実際にその土地へ行く価値は、「情報を得ること」ではなくなっていきます。
その場所へ行かなければ出会えない人。
その場でしか聞けない話。
そこでしか感じられない空気。
そして、その土地だからこそ生まれた味。
そういうものの価値が、むしろ高くなっていく。
ガストロノミーツーリズムとは、「何を食べるか」だけではなく、「なぜ、それがここにあるのか」を体験する旅なのです。
そこには「テロワール」という考え方もあります。
ワインの世界でよく使われる言葉ですが、その土地の土壌、気候、水、地形などが、食材の味や食文化に影響を与えるという考え方です。
伊豆で山葵がおいしいのも、水や気候と無関係ではありません。
北海道でジャガイモや乳製品がおいしいのも、その土地の自然条件と深く結びついています。
そして、自然だけではありません。
人々の暮らしも食文化をつくります。
冷蔵庫のなかった時代、人は食材を保存するために、干したり、塩漬けにしたり、燻したり、発酵させたりしてきました。
その土地の冬の寒さや夏の暑さ、海や山との距離によって、食べ方が変わっていった。
だから郷土料理は、単なる「昔からある料理」ではありません。
その地域の人たちが、「ここでどう生きてきたのか」という知恵の集積でもあるのです。
『富嶽はなぶさ』の料理も、伊豆の豊かな自然、綺麗な水で育った山葵や鮎、それらを最高の形で引き出す料理人の技術と想い。すべてが一皿の上に「文化」として結実しているからこそ、僕たちの心に深く残る体験になるのだと実感しました。
すべてのビジネスや仕事も同じ
この体験は、僕たちのビジネスにもそのまま通じる大きな気づきを与えてくれます。
今の時代、機能や品質の良さ(=単なる味の美味しさ)だけで差別化しようとしても、すぐに似たような競合が現れて価格競争に巻き込まれてしまいます。「質が良い」ことは、もはやスタートラインに過ぎません。
本当に選ばれ続ける事業やサービスには、必ず
・なぜ自分たちがこの事業をやっているのか
・どんな想いや文脈、哲学(文化)をお客さまに届けているのか
という「独自の文化やストーリー」が宿っています。
「ただ美味しいものを作る人」で終わるのか、それとも「商品を通じて文化や体験を届ける人」になるのか。僕自身、自社のサービスを振り返ったとき、「単なる機能を提供しているだけになっていないか」「背景にある文化まで届けられているか」を改めて深く考えさせられました。
みなさんのビジネスにおける「独自の文脈や文化」とは何でしょうか?
そのあたりを少し意識してみると、日々の仕事や発信にも新しい視点が生まれるかもしれません。
藤村 正宏
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