資本主義ってよくできた仕組みだった
むかし、アダム・スミスっていう人が言いました。
「資本家が自分の利益を追いかけていれば、結果的に社会全体も豊かになるんだよ」って。
自分のために作った工場が、雇用を生んで、物が流通して、経済がまわっていく。
「神の見えざる手」って言葉が、その仕組みの代名詞になった。
資本主義って、ほんとによくできた仕組みだったんです。
しばらくの間は。
冷蔵庫が家に届いて、
カップ麺がいつでも買えて、
どこの国の映画もスマホで観られるようになった。
「うわぁ、便利になったなぁ」
って、僕たちは素直に感動していた。
でも、あるときふと気づくんです。
「あれ?この仕組み、なんかおかしくなってない?」
「もっと早く、もっとたくさん」が止まらない。
いま、資本主義っていう仕組みが、ガタガタしてる。
どうしてかっていうと──
「短期で儲けること」だけが、評価されるようになったからです。
たとえば、銀行。
お金を貸すとき、返してもらえるかどうかで判断する。
それはもちろん当然なんだけど、
「今すぐ儲かりそうな会社」にしか貸さない。
投資家もそう。
株を買って、値上がりしたらすぐ売って利益を得たい。
だから、派手な成長を見せる会社が好まれる。
つまり、企業もどんどん「短距離走型」になっていくんです。
長くてゆるやかな未来より、今すぐの数字。
──50年後、世界の食糧危機を救うかもしれない技術?
残念ながら、いま儲からないから投資はナシ。
その結果、どうなったか。
・環境を破壊してでも、早く稼げる工場を建てる。
・労働者を安くこき使って、数字をつくる。
・モノが売れるように、大げさな広告を流しまくる。
・「必要ないかも」と思わせないくらいの熱量で、欲望を煽る。
「売れたら勝ち」みたいな空気が、あちこちに広がって、
しまいには、粉飾決算とか、安かろう悪かろうの商品とかまで平気で出てくる。
ほんとは、わかってる。
このまま突っ走っていいのか?
ちょっと、まずくないか?
って、みんな、うすうす気づいている。
でも、止まらない。
止めたくても、今の仕組みでは止まれない。
小さな会社だってそうです。
「来月の売上、どうしよう」って焦るあまりに、
やりたくないことまでやってしまう。
誰かのマネをしたり、必要以上に広告を出したり。
目先の利益のために、
“自分らしさ”とか“長く続けられる働き方”を削ってしまうこともある。
じゃあ、どうすればいいんだろう?
誰かが魔法のような答えを出してくれるわけじゃない。
でも、ひとつ言えることがあるとすれば──
「自分がどこを向いてビジネスをしているのか」
これを、ちゃんと見つめなおす時期なんだと思います。
・短期じゃなくて、10年後を見ているか?
・自分の子どもたちにも、この世界を残したいと思ってるか?
・心から応援したいって思える取引先と仕事しているか?
・誰かを不幸にしてまで、売り上げを上げてないか?
「神の見えざる手」に任せていたら大丈夫、って時代は、たぶんもう終わったんだと思う。
これからは、“自分の手”で、見える未来をつくっていく時代。
僕のクライアントの、北海道の湖のほとりにある、あるリゾートホテル。
華やかなラグジュアリーホテル…というよりは、どこか懐かしくて、心がほどけるような場所。(ラグジュアリーなんだけどね)
このホテルの社長さんは、地域の未来のことを、ずっと考え続けている人です。
「観光業って、地域を疲弊させることもできるし、元気にすることもできる」
そう言って、地元の漁師さんや農家さん、職人さんと一緒に、“この土地でしか味わえない体験”を作ってきました。
たとえば、朝食に出る野菜は、近所の有機農園から。
アクティビティには、地元のアイヌの長老が語る森と湖にまつわるアイヌ民話。
館内の至るところに、地元のアーティストの作品を展示。
夜、外に出て食べる店が少ないというクレームが来ると、商店街の空いている土地を手に入れ、そこにテナントを誘致して、飲食街を作る。
近隣の商店街のおみやげもの屋さん、飲食店、地元企業に「SNS活用講座」を、僕を呼んで実施する。
などなど・・・
「観光地」じゃなくて「暮らしの延長にある旅」を訪れた人に届けたいって、そういうスタンスなんです。
だからこそ、見た目だけの薄っぺらいイベントや、短期のSNSキャンペーンで集客!みたいなことは、しない。
そのかわり、10年後も20年後も、「また、あそこに帰りたい」と思ってもらえるように、丁寧に、静かに、関係を育てています。
売上だけを追いかけたら、もっと手っ取り早い方法もあるはず。
でもこのホテルは、目の前の人と、この町の未来を一緒に大事にしてる。
「見えざる手」ではなく、誰かを想う“手ざわり”のある仕事が、ここにある。
きっと、そんな営みに、希望があるんじゃないかって思うのです。

藤村 正宏

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