子どものころ食品サンプルは“夢の国”だった|食品サンプルを巡るマーケティング的考察

食品サンプルを最初に並べたのは?

ウィキペデアより

「最初に食品サンプルを食堂に並べたのは、どこだったんだろう?」

そんな素朴な問いから、ふと昔の情景がよみがえります。
あの頃(5~60年前)のスパゲティといえば、ほとんど二択でした。
ナポリタンか、ミートソース。
しかも主役は、母が作ってくれるいつもナポリタンで、ミートソースは“たまに会える特別なひと”。

ひと月かふた月に一度、母が連れて行ってくれたデパートの食堂。
そこで僕はようやく、ミートソースさまにお目にかかれたのです。
子どもにとっては、まるで王様に会うような気分だった。

食堂の入口に並んだ食品サンプルのウインドウは、いわば“夢の国”。
フォークがスパゲティをからめたまま宙に浮かんでいる。
光を浴びて、湯気まで立っていそうなリアルさに、僕はただただ、ショーケースに顔をくっつけて、見とれていました。

「すげ〜……」

それが、子どもだった僕の素直なつぶやき。
この国の“目で食べる文化”は、こんなふうに幼い感性を震わせてきたんだと思います。

食品サンプルを最初に導入したのはどこか?

資料をたどると、食品サンプルが食堂に本格導入された“もっとも確かな最初期”は、
大正12年(1923年) 白木屋(現在の東急百貨店)日本橋本店の食堂

白木屋は、ライバルの三越と競いながら、
「料理の見本を並べる」「前金制(食券)にする」という革新的な仕組みを導入しました。

当時の食堂はメニュー数が多く、
・席に着いてから注文まで時間がかかる
・イメージと違う料理が来てトラブルになる
そんな課題が山ほどあった。

そこで白木屋は、「見せて選んでもらえば、すべて解決するじゃないか」と考えたわけです。
まるで魔法のような発想転換です。
そして実際、食品サンプルと前金制の導入で売上は“4倍”になったと記録されています。

数字って、あとからついてくるんですよね。
まずは、お客さまの“迷い”を減らし、“ワクワク”を増やしたから。

食品サンプルは 日本の「つながりの技術」だった

食品サンプルのすごさは、ただの模型以上のものを持っています。

それは
「ことばを越えて伝わる安心」
「初めての人でも迷わない体験」
「家族が同じ方向を向ける小さな物語」

たとえば、ホテルのビュッフェで“模型でデザートの大きさがわかる”と、子どもは安心して選べる。
街の時計店なら、“電池交換の流れをミニチュアで説明”すれば、お客さんはホッとする。
阿寒湖の土産店でも、サンプルを見た瞬間に旅の気持ちがよみがえる。

モノを売るんじゃなくて、
「あなたのための一歩先の未来」を見せる。
食品サンプルは、日本が生んだ“小さなUX(体験設計)”だったのです。

なぜ 子どもはあれほど惹かれたのか?

今思うと、あの食品サンプルのウインドウは、
“未来の自分”がちょっと覗ける場所でした。

これから注文する料理。
まだ味わってない体験。
家族で笑いながら食べる時間。

たぶん子どもって、視覚の向こうにある“物語”を本能で感じているんでしょうね。
フォークが宙に浮いていたのは、ただの演出じゃなかった。
「食べる前のワクワク」を形にする、日本の美学だった。

現代のスパゲティは100種類以上

では「ミートソース」はどこへ行くのだろう?

いまの飲食店には、本当に豊富なパスタが並んでいます。
トマトクリーム、ウニ、ジェノベーゼ、ペスカトーレ、ボロネーゼ…。
100種類なんて軽く超えていそう。

でもふと思うんです。
最初に出会った“ミートソースさま”の記憶は、
どんな新作にも負けない強さを持っている、と。

ビジネスでもきっと同じなんだと思う。
選択肢が増えすぎた時代だからこそ、
“あなたの物語”を持つ商品だけが、静かに選ばれる。

食品サンプルがその入口をつくってくれたみたいに。

今日の実践ステップ

  1. 見える化する
     あなたの商品・サービスの“未来の姿”を、写真や模型や動画で見せてみる。
  2. 物語で説明する
     スペックより、「その一品で、どんな一日が始まるのか?」を描いてみる。
  3. 迷いを減らす仕組みをつくる
     白木屋のように、お客さまの“判断コスト”をそっと軽くしてあげる。

それだけで、選ばれ方は大きく変わります。

“フォークが宙に浮くあの瞬間、ぼくたちは未来の味をひと足先に知っていたのかもしれない。”

 

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北海道釧路生まれ。明治大学卒。著書「モノを売るな!体験を売れ!」で提唱したエクスペリエンス・マーケティング(通称エクスマ)の創始者。経営者、ビジネスリーダー向けに「エクスマ塾」を実施、塾生はすでに1000名を超えている。著書は、海外にも翻訳され30冊以上出版。座右の銘「遊ばざるもの、働くべからず」
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