百貨店という“発明”
知っています? 百貨店というのは、発明された業態だということを。
そう、「誰かが考えて創ったビジネスモデル」なんです。

18世紀の頃の「ボン・マルシェ」
世界最初の百貨店「ボン・マルシェ」
1852年、フランス・パリ。
アリステッド・ブシコーという青年が、
世界で初めての百貨店『ル・ボン・マルシェ(Le Bon Marché)』を開きました。
(出典:lebonmarche.com、britannica.com)
それまでの商売では、
値札がついておらず、価格はその場の交渉で決まっていました。
また、店に行くからには何かを買わなければいけなかった。
「見るだけ」などあり得なかったのです。
ブシコーは、そこで考えました。
「値札をつけて、誰でも安心して買えるようにしよう。」
「買わなくても見に来るだけで楽しめる店にしよう。」
それが**“定価販売”と“見て楽しむ店”**という革命でした。
店内はガラス屋根の吹き抜け構造。
自然光が差し込み、
商品を眺めるだけでワクワクする場所。
当時の人々にとって、まるで「娯楽施設」でした。
この仕組みはやがて世界中に広まり、
東京・日本橋の三越本店の設計にも影響を与えます。
ニーズを「創り出す」広告という革命

夜の「ボン・マルシェ」
ブシコーの革新は、店舗デザインだけではありません。
彼は「広告」によって、人々がまだ気づいていない欲望を呼び覚ましたのです。
たとえば、当時のパリでは、海水浴は貴族やブルジョア階級の娯楽でした。
一般市民にはまったく縁のないものだった。
そこに、ブシコーは海水浴用の水着を並べ、
ポスターに青い海と笑顔の家族を描いた。
「あなたたちも、夏には海へ行っていいんですよ。」
このメッセージが、人々の意識を変えました。
「自分もそんなことをしていいのか」と気づいた瞬間、
人々の中に“新しい欲望”が生まれたのです。
つまり、ボン・マルシェは
**「まだ存在していないニーズを発明した店」**だった。
百貨店の本質は「ライフスタイルの提案」
ブシコーのやったことは、
単に商品を売ることではなく、生き方を提案することでした。
それまで市民が想像もしなかった暮らし方、
まだ言葉になっていない欲望を商品を通して形にした。
百貨店とは、そういう“欲望を発見する場所”だったのです。
日本に渡った「百貨店という発明」
この思想は、やがて日本にも伝わります。
明治・大正期、呉服商たちがその先駆けとなりました。
総務省・国立国会図書館の記録によれば、
明治期の三越・白木屋・高島屋などの呉服店が
倉庫型の商売から、展示・定価販売・多品種販売へと進化していきました。
(出典:ndl.go.jp)
特に、三越日本橋本店はパリのボン・マルシェを模した構造を持ち、
1907年には日本初の「屋上庭園」を開設。
買い物を超えた体験を提供する“文化施設”としての百貨店が誕生します。
(出典:ndl.go.jp)
さらに、松坂屋本店は1611年創業の呉服商から1910年に百貨店へ転換し、
「西洋式小売文化の日本的進化形」を完成させました。
(出典:en.wikipedia.org)
こうして日本の百貨店は、単なる販売の場ではなく、
「生活文化を発信する装置」として進化していったのです。
商売とは、「欲望を気づかせること」
この歴史が教えてくれるのは、
“商売の本質はニーズを聞くことではない”ということです。
お客さんが欲しいと言っているものを売るのは、
ただの供給です。
でも、まだ気づいていない欲望に光を当て、
「そうか、これが欲しかったんだ」と感じさせるのが、
本当のビジネスです。
百貨店の誕生は、まさにその最初の実験でした。
つまり、百貨店とは「お客さんの未来を提案する店」だったのです。
あなたのビジネスにも「ブシコーの精神」を
僕たちの仕事も同じです。
お客さんに、
「こんな体験があったんだ」
「こんな自分になれるんだ」
と気づかせてあげること。
それができれば、
あなたのビジネスは“モノを売る”から“物語を生み出す”へと進化する。
今日のまとめ
百貨店は、「ニーズを聞いた店」ではなく、
「ニーズを発明した店」だった。
1852年のパリで始まったこの発明は、
100年以上経った今も、僕らに問いかけている。
あなたはお客さんの言葉を聞いているか?
それとも、お客さんの心の奥に眠る“まだ気づかれていない欲望”を見ようとしているか?
答えは、いつの時代も同じです。
ビジネスとは、人の中に眠る「欲望」に気づかせること。
それが、どんな時代でも繁栄を生む“商売の原点”なのです。
藤村 正宏
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