宇宙船地球号という発想|愚かである勇気はどこから生まれたのか

Stay hungry.Stay foolish.

「ハングリーであれ。愚かであれ。」

この言葉は、多くの人がスティーブ・ジョブズの言葉だと思っています。
でも、正確に言うと、彼のオリジナルではありません。
この言葉の源流は、もっと前にあります。
バックミンスター・フラーという思想家の世界観から生まれたものです。

人生を捨てようとした男の決断

バックミンスター・フラー。
僕はこの人を建築家として知っていました。
30代の頃、カナダのモントリオールにある、フラー・ドームを訪れた時に驚いた。
その建築思想は、「最小限の資源で最大の効果を生み出す」。
三角形のフレームを組み合わせた超軽量の球体構造(ジオデシック・ドーム)で、柱のない広大な空間と、軽量かつ頑丈な構造を実現していた。

それからフラーのことをたくさん調べて、すごい人だということを知りました。
建築家、発明家、思想家。「現代のレオナルド・ダ・ヴィンチ」と呼ばれる一方で、夢想家、変人、役に立たない男とも言われた人物です。

彼の人生を決定的に変えたのは、32歳のときでした。事業に失敗し、人生に絶望し、湖に身を投げて自殺しようとしたのです。その瞬間、ある考えが浮かびました。

「これからは、自分のためには生きない。自分の人生と経験を、すべて他人のために使ってみたらどうだろう。人々が、私のような苦しみを味わわないように。」

彼は自殺を思いとどまり、その日から「人類全体のために生きる」ことを決意します。

ここから、彼の思想が始まりました。

地球は一つの宇宙船である

フラーが世界に提示した、最も有名な概念。それが 「宇宙船地球号」 です。
地球は広大な自然ではなく、無限の資源を持つ場所でもない。

私たちは、閉じられた宇宙空間を航行する一隻の宇宙船の乗組員なのだ。酸素も、水も、資源も、すべて有限。誰かが浪費すれば、船全体が危険にさらされる。

人類は運命共同体であり、競争ではなく協働によってしか生き延びられない。

これは1960年代としては、あまりにも早すぎる思想でした。しかし、この視点は後に環境思想や持続可能性の原点となり、世界中の若者の思考を変えていきます。

フラーの思想を広めた一冊の本

フラーの思想に強く影響を受けた人々がいました。その中の一人が、スチュアート・ブランドという人物です。彼は1968年、ある雑誌を創刊します。

ホール・アース・カタログ。

これは普通の雑誌ではありませんでした。
「人類が地球という宇宙船を賢く運営するための道具集」
科学、技術、思想、自然、農業、教育、哲学…。

人が自立し、学び、創造するためのあらゆる知識を集めた本です。その思想の中心にあったのが、フラーの世界観でした。
人類は受け身の存在ではない。自分で考え、自分で作り、自分で未来を設計する存在なのだ。

最後のページに書かれていた言葉

ホール・アース・カタログは、やがて終刊を迎えます。その最終号の裏表紙に、短いメッセージが掲載されました。

「Stay hungry. Stay foolish.」

満たされるな。賢くなりすぎるな。

挑戦をやめるな。未知に向かい続けろ。

これは読者への、最後のエールでした。

若き日のスティーブ・ジョブズ

一人の若者が、この雑誌を夢中で読んでいました。
スティーブ・ジョブズ。
彼は若い頃、ホール・アース・カタログを「自分の世代のバイブルだった」と語っています。
世界を自分の手で変える。
常識を疑う。
技術と人間性を結びつける。

その思想の土台は、ここで育まれました。

そして2005年、スタンフォード大学の卒業式で、彼は学生たちに語りかけます。

「Stay hungry. Stay foolish.」

それは彼の言葉であると同時に、受け継がれてきた思想のリレーでもあったのです。

愚かである勇気

フラーは社会に理解されませんでした。
ジョブズもまた、何度も批判されました。
でも彼らは共通していました。

常識より思考を信じたこと。
安全より好奇心を選んだこと。
完成より可能性を愛したこと。

そして何より――自分はこの宇宙船の乗組員だと理解していたこと。
世界は与えられるものではなく、設計するものだと知っていたのです。

僕たちは乗組員である

地球は宇宙船。私たちはその乗組員。

ならば問いはシンプルです。
この船をどう運営するのか。
どんな未来へ向かうのか。

その答えは、いつも同じ場所にあります。
満足しないこと。
確信しすぎないこと。
学び続けること。
挑戦し続けること。

ハングリーであれ。
愚かであれ。

それは、未来を生きる者への最も誠実な生き方なのかもしれません。

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北海道釧路生まれ。明治大学卒。著書「モノを売るな!体験を売れ!」で提唱したエクスペリエンス・マーケティング(通称エクスマ)の創始者。経営者、ビジネスリーダー向けに「エクスマ塾」を実施、塾生はすでに1000名を超えている。著書は、海外にも翻訳され30冊以上出版。座右の銘「遊ばざるもの、働くべからず」
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