量子論をマーケティングの比喩として考えてみた

量子論は、なぜマーケティングの比喩として「ちょうどいい」のか

「量子論って、なんだか難しそうですよね」前回の記事を読んで、そう感じた方もいるかもしれません
正直に言えば、その感覚はまったく正しいです

実際の量子論は数式だらけで、私たちの直感に反する不思議な現象ばかりが起きるため、専門家の間でも解釈が分かれるような深遠な世界です。

でも、ここで僕が量子論を持ち出している理由は、あなたに物理学を理解してほしいからではありません
量子論というレンズを通すことが、マーケティングやビジネス、ひいては人生そのものを考えるための「比喩」として、驚くほどちょうどいいから。

「正解が一つ」の時代は終わった

僕たちは長いあいだ、世界を「固定された揺るぎないもの」として理解しようとしてきました市場はこういうものだ。顧客はこういうものを求めている。業界のルールはこうだ。未来はこうなるはずだ
こうした「世界は一つに決まっている」という前提は、社会が安定して右肩上がりに成長している時代には、とても役に立ちました

でも、今はどうでしょう市場は常に揺れ動き、人々の価値観は細かく枝分かれし、テクノロジーは恐ろしいスピードで進化しています。昨日の「大正解」が、今日にはもう古くなっているそんな激動の中で、これまで通り「世界は一つに決まっているはずだ」「どこかにたった一つの正解があるはずだ」と思い込もうとすると、どうしても無理が生じ、苦しくなってしまいます

あなたが「観測」したものが、現実として立ち上がる

量子論の世界では、物事は最初から「たった一つの状態」に確定して存在しているわけではありません誰かが観測するまでは、いくつもの異なる可能性が「重なり合ったまま」フワフワと存在しています。そして、「どう観測するか」によって、無数の可能性の中から一つの姿が現実として立ち上がるのです

実はこの考え方、マーケティングの現場にそのまま当てはまります

たとえば、あなたが「今の時代、結局はお金。この市場は過酷な価格競争だ」と観測したとします
すると、あなたの目には価格競争のデータばかりが飛び込んできて、他社より1円でも安くする戦略が「唯一の正解」に見えてきます

一方で、「いや、この市場には、心が震えるような体験を求めている人がいるはずだ」と観測したとします
すると今度は、体験の価値を大切にする顧客の姿が浮かび上がり、価格競争とはまったく違うアプローチが「正解」に見えてきます

これは「どちらの現実認識が正しいか」という話ではありません量子論的に言えば、どちらの現実も可能性としては存在しているのです
ただ、あなたが「どの現実を立ち上げているか(=どう観測したか)」の違いでしかありません

世界は一つではないし、市場も一つではありません。顧客の姿も一つではないそれなのに、多くの人は自分が見ている特定の側面だけを「唯一の絶対的な現実」だと思い込んでしまう
ここから、マーケティングの息苦しさが始まるのです

観測者は、世界から切り離されていない

量子論がマーケティングの比喩として完璧な理由は、もう一つありますそれは、「観測者は、世界から切り離されていない」という視点です

昔の物理学では、観測者(人間)は安全なガラスの向こう側から、世界という実験ボックスを客観的に眺めていると考えられていました
しかし量子論では、「観測するという行為そのもの」が、対象に直接的な影響を与えてしまうと考えます

マーケティングも、まったく同じです
あなたはお客様を、どんな存在として見ていますか?
市場について、普段どんな言葉で語っていますか?
「どうせ安くしないと買わないだろう」「騙されないようにしなきゃ」……そんな不安や不信感を持った観測者がつくるマーケティングは、言葉の端々やデザインの細部にその不安がにじみ出ます
そして、無意識のうちにお客様の警戒心を呼び起こしてしまうのです

逆に、「人は本来、温かいものだ」「きっとこの価値を分かってくれる人がいる」と信じる穏やかな観測者がつくるマーケティングは、不思議と安心感を生み、深い信頼を育てていきます
あなたが言葉に出さなくても、あなたの「観測の姿勢」は、商品やサービスを通じて確実にお客様に伝わってしまうのです

マーケティングがうまくいかないとき、表面的な手法を増やしたり、最新のツールに乗り換えたりしても解決しないのはこのためです。観測者であるあなた自身が、その「うまくいかない世界」と切り離されていないからです

「曖昧さ」を受け入れる高度な知性

ここまで読むと、「なんだかスピリチュアルな精神論みたいだな」と思う方もいるかもしれません
しかし、AIが普及した今の時代において、これは極めて実用的でシビアな話です

AIは、あなたの「観測」を恐ろしいほどの精度で増幅させます不安な観測を持ったままAIを使えば、AIは世界中から不安を裏付けるデータを集めて補強してくれます
逆に、新しい可能性を信じてAIに問いかければ、その可能性を実現するための力強い証拠とアイデアを提示してくれます

だからこそ、量子論的な世界観を持つことは、思考を「曖昧にする」ことではありません「世界を早く固定しすぎない」という、非常に高度な判断力を身につけることなのです

量子論は、私たちに「何も分からない世界」を突きつける学問ではありません。「世界は、あなたが思っているよりもずっと柔らかく、可能性に満ちている」という希望の感覚を与えてくれるものです

マーケティングも、そして私たちの人生も、本当はとても柔らかいそれをガチガチに固めて、息苦しくしてしまっているのは、いつだって人間の側なのです

よくある質問(FAQ)

Q1. マーケティングのために、量子論や物理学を本格的に勉強する必要があるのでしょうか?

A. いいえ、その必要はありません 。この記事で量子論を持ち出しているのは、あくまでビジネスやマーケティング、そして人生を柔軟に考えるための「比喩」として驚くほどちょうどいいからです
数式や専門知識ではなく、「見方によって現実が変わる」という感覚だけを持ち帰っていただければ十分です。

Q2. 「観測者が世界から切り離されていない」とは、ビジネスにおいて具体的にどういうことですか?

A. 従来の考え方では、私たちは市場を「外側」から客観的に分析しているつもりでした。しかし実際には、あなたがお客さんをどう見ているか、未来をどう信じているかという「姿勢」そのものが、商品やサービス、発信する言葉に自然とにじみ出ます。不安な気持ちで市場を見れば、お客さんにも警戒心を与えてしまうなど、観測者であるあなたの状態がそのまま結果(現実)に影響を与えるということです

Q3. 「どちらの現実も存在している」なら、どんな戦略でも思い込みさえあれば成功するということですか?

A. 単なる精神論や「思い込めば夢は叶う」という話ではありません。たとえば「価格競争の市場」も「体験を求める市場」も、どちらも現実の可能性として重なり合って存在しています。大切なのは、「自分が見ている世界だけが唯一の現実だ」と固定してしまうのをやめ、自分がどの現実を立ち上げたいか(観測するか)を選び取るということです

Q4. AI時代において、この「量子論的な世界観」を持つメリットは何ですか?

A. AIはあなたの「観測」をそのまま増幅させるツールだからです。あなたが不安な前提(観測)で問いを投げれば、AIは不安を裏付けるデータばかりを集めて補強します。逆に、可能性を信じて問いかければ、それを強化するアイデアを出してくれます
だからこそ、AI時代には「世界を早く固定しすぎない」という高度な判断力が強力な武器になります

Q5. 結局のところ、マーケティングで行き詰まったら何を意識すればいいのでしょうか?

A. 「世界は、思っているより柔らかい」という感覚を思い出してください。市場や顧客の反応を「もうこういうものだ」と固く決めてしまっているのは、実はいつだって私たち人間の側です。マーケティングも人生も本来は柔らかいものだと気づくことで 、新しい打ち手や見え方が見つかるはずです。

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北海道釧路生まれ。明治大学卒。著書「モノを売るな!体験を売れ!」で提唱したエクスペリエンス・マーケティング(通称エクスマ)の創始者。経営者、ビジネスリーダー向けに「エクスマ塾」を実施、塾生はすでに1000名を超えている。著書は、海外にも翻訳され30冊以上出版。座右の銘「遊ばざるもの、働くべからず」
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