JAZZのアルバム紹介:バド・パウエル「シーン・チェンジス」

クレオパトラの夢

今思うと、ボクが生まれ育った、北海道の釧路っていう街は、ジャズが似合う街だなって思う。
陽気なラテン系ではない気候。
霧が多く、寒く、冬は雪が少なく空気が凛としている。
港があったり、坂が多かったり、湖があったり。

高校2年の初冬。
冬の匂いがする釧路の街を学校の帰り、ひとりで歩いていたら、ジャズ喫茶「ジスイズ」の扉のすきまから流れていた音楽が、バド・パウエルのこのアルバム。

一目ぼれしたボクは、このレコードをすぐに購入してその冬、擦り切れるほど聴いた。
今もこのアルバムを聴くと、北の街がクリスマスのイルミネーションで華やぎ、人々が仕合わせそうな表情をしている。
そんな心あたたまる情景がよみがえってくる。

このアルバムはなんといっても、1曲目に『クレオパトラの夢』という、わずかに哀愁をたたえた、美しい名曲が入っていることが、価値であることは間違いない。
この曲はバド・パウエルのオリジナル曲。
誰もが1度や2度は聞いたことがあるメロディ。
間違いなく、ジャズの歴史に残る名曲であり、バド・パウエルの代名詞とも言える名演奏。

ただ、このアルバムは『クレオパトラの夢』だけが価値ではない。
1曲目の最初の音から、最後の1音まで、無駄のない演奏。
全てパウエルの書き下ろしの曲。
「ジャズに名曲はない」という言葉があるが、このアルバムは例外だと思う。
名曲が揃っている。
アルバム自体も、ジャズのアルバムの多くがそうであるように「演奏を聞かせること」をメインに据えているのではなく、曲を聴かせるというコンセプトで作られているように思える。

バド・パウエルというピアニストは「モダン・ジャズピアノの祖」といわれるように今のピアノトリオ(ピアノ・ベース・ドラムス)の原型を確立した人といわれている。

天才といわれたピアニストだが、
天才が直面する壁、麻薬やアルコールなどの中毒に苦しみ、精神障害を負ってしまう。
その治療のため、1950年代中期以降、最盛期のように指は動かず、演奏は衰退していく。
このアルバムはその衰退しかけた時期に出たものではあるが、その不調期に入りかけていることが、テンポも全盛期のような激しく早いものではなくなっていて、それがとてもいい。
展開も性急さより、落ち着いた円熟の味が出ている。

円熟期の録音といえども、呻き声を発しながらの鬼気迫る演奏は、やっぱり天才の輝きを放っている。

『クレオパトラの夢』

芸術家という職業の宿命的な悲しみ。
世間やファンの期待の、重圧。
それでも表現したいというエネルギー。

生きていくことって、一体どういう意味があるのか。
生きることの目的とは何か。
でも、目的は分からないけど生きていることって素晴らしいことなんだ。
そんなことを思わせてくれる。

今年も年末が近づいている。
冬の匂いを感じるこの時期。
天才の最後の輝きを聴いてもらいたい。

 

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