マーケティングコンサルタント藤村正宏の自伝:12 世の中には「上手い役者」と「いい役者」がいる

夏休の人も多いと思うので、また自伝を書きます。
大学時代、演劇をやっていて学んだ、ビジネスにも役立つ重要なこと。

大学時代は演劇三昧の日々

大学生の頃、1年に入った時から、ずっと早稲田大学の演劇研究会の劇団「SHIN」というところで芝居を作っていました。
どうして、明治の学生だったボクが、早稲田で演劇をやることになったかというと、受験の時にたまたま知り合った結城くんという1年後輩の縁から。

結城くんは演劇志望。
たまたま受験の時に知り合い、彼は早稲田に合格した。
彼は早稲田入学後、劇研の劇団「COM」というのに入部。
ボクも誘われて、そこに入ったわけです。
(その後、1年もたたずに劇団の名前が「SHIN」に変わる)
やっぱり演劇は早稲田が有名だったから。

1年生から2年生になるまでは役者を3年生からはシナリオと演出をやっていた。
1回の公演が決まると、だいたい3ヶ月くらいは毎日稽古があります。
稽古は夕方6時くらいから9時まで。
その後、飲みにいって、演劇論を戦わせる。
そんな日々です。

劇団SHIN時代の写真 ボクはどこにいるでしょう? なかなかわからないかも。

劇団SHIN時代の写真
ボクはどこにいるでしょう? なかなかわからないかも。

稽古は、早稲田大学文学部のスロープ下の2番教室でやっていた。
文学部スロープ下には、1番から6番くらいまでの、シングルナンバー教室がありました。
昔は教室として使っていたのだろうけど、その時代には、なしくずしに、さまざまなサークルが占拠していた。

一番奥の部屋、ボクたちの部室のお隣は、その当時早稲田大学の自治会などで勢力があった「革マル派(革命マルクス派)」の部室。
いつも赤いヘルメットと、金属バットが整然と並んでいる部室。
金属バットは、もちろん野球をやるためにあるわけではありません。
鉄パイプの代わり。
大学構内に鉄パイプは持ち込みできなかったのです。
鉄パイプは、闘争のための武器に使うわけです。

時々ボクらは、稽古の前に時間がある時なんか、革マル派の人に金属バットを借りて、野球をやったりした。
革マル派の人たちは、怖いイメージがあったんだけど、普段はとっても優しい、いい人たちばかりだった。

「うまい役者」と「いい役者」はちがう

公演が決まると、毎日毎日、稽古の連続の日々。
シナリオの読み合わせ、立ち稽古、エチュード・・・
いろいろな稽古をする。

シナリオも最初のシナリオから、どんどん変わっていく。
アドリブやセリフも変わり、公演の時には、最初とはまったくちがうものになっていく。
もちろん、面白くて質が高まっているってことです。

元になる戯曲、たとえば、つかこうへいの「熱海殺人事件」があるとします。
その戯曲をそのまま上演するのではなく、劇団の中の役者さんたちに合わせ、稽古中にちがう作家の戯曲なんかを付け加えたり、登場人物を増やしたり、セリフを増やしたりしていく。
脚色や編集作業をやっていくのです。

最終的にできあがったものは、ほぼオリジナルって言ってもいいくらいになる。
間違いなく面白いものができる。
ボクも作演出をやりましたが、ある芝居は、サルトルの「出口なし」という戯曲からインスパイアされたもの。
またある芝居は、別役実さんの「にしむくさむらい」という戯曲が元になっているオリジナル。
そんな感じです。

この芝居作りで、オリジナルに囚われなくていいんだっていうことを学んだ。
オリジナルをそのままの解釈で上演するという手法もありますが、劇団「SHIN」でやっていたのは、新しい芝居を作ること。

どういうことかというと、ある戯曲を元に、それをアレンジして、時には他の戯曲をもってきて、それで新しい芝居を作り出す。
ボクが演出をした「NO EXIT!」という芝居は、サルトルの「出口なし」という戯曲の舞台設定で、その他にはシェイクスピアの「ハムレット」やチェーホフの「かもめ」、別役実、清水邦夫などの戯曲を使っていたと思う。

誰かの作品で、新しい価値を創り出す。
そんなイメージです。
うまく説明できないけど、出来上がった芝居は、かなり面白かった。

本当の自分が出ているかどうかが「伝わる」ために重要

この、誰かの作品で新しい価値を創り出すっていうのは、役者さんにも言えることです。
たとえばチェーホフの「かもめ」の主人公トレープレフという役があります。
それを演じるA君は、トレープレフになりきってはダメだってこと。
トレープレフを借りて、自分を演じるってこと。

こういう考え方です。

よく芝居の稽古で「伝わってねえよ!」という言葉が出てきます。
伝わらない。
うまい役者といい役者はちがうってこと。

演技がうまい人っています。
訓練したら、みんな演技はうまくなる。
演技がとっても上手。
何をやらせても、上手にこなす。
でも、ぜんぜん伝わらない、存在感のない役者。

一方で、演技は下手くそなんだけど、とっても存在感のある、伝わる役者。
こういう人は稽古をしているうちに、すごい演技をするようになる。

その違いは何かというと、自分を隠さず、裸で演じているかどうか。
これなんです。
舞台の役者っていうのは、この覚悟があるかどうかで、伝わり方がまったくちがうのです。
隠しごとのない演技。
自分を目一杯出す。
役を利用して、自分を表現すること。
これが「伝わる」か「伝わらない」かの差になるのです。

演劇を創り続けているうちに、そういうことを学びました。

この考え方は、今のボクの仕事に役立っています。
これはなんでも言えること。
上手い販促物と、いい販促物はちがう。とか。
上手い先生と、いい先生はちがう。
上手い画家と、いい画家はちがう。
販促物やSNSの発信、講演やセミナーなどにもこの考え方が応用できるのです。

ボクは今までたくさんの塾生さんを、見事な講演ができるように育成してきました。
その元になる考え方が、この当時の芝居作りで学んだことなのです。
どんなに上手に講演しても、伝わらない。
そんな悲惨なことにならないためには、自分を隠さずに人前で話すことなのです。

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北海道釧路生まれ。明治大学卒。著書「モノを売るな!体験を売れ!」で提唱したエクスペリエンス・マーケティング(通称エクスマ)の創始者。経営者、ビジネスリーダー向けに「エクスマ塾」を実施、塾生はすでに1000名を超えている。著書は、海外にも翻訳され30冊以上出版。座右の銘「遊ばざるもの、働くべからず」
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