一緒に行った女性と仲良くなれるレストランって?

人間は「極(きわ)」が好きという習性がある

人間はエッジや端っこ、極が好きだという習性があります。
たとえば飲食店では壁際や窓際に席が人気。
電車では端っこの席に座る。
海辺のレストランとか極にある店は人気とかね。
これは人間が原始時代から持っている「防衛本能」に関係しているのです。

海辺の店は人気だよね (沖縄のレストラン)

海辺の店は人気だよね
(沖縄のレストラン)

 

以前、関西のベイエリアで、レストランのプランニングをしたことがあります。
カップル向けのレストランです。
夜のデートコースに利用してもらいたいというオーナーの意図がありました。
ボクはそのレストランのコンセプトに「必ず女性を落とせるレストラン」というのを考えました。

「そんなのできるわけないわよ~」と思っている人もいるかもしれませんが、一概にそうとはいえないのです。

ボクが最初にこのコンセプトを思いついたのは社会心理学の「錯誤帰属」の実験を知ったときでした。
「錯誤帰属」とは、人間は足もとが不安定な場所や高いところ、暗闇にいるときには、無意識に恐怖を感じ、脳がその恐怖のため、わずかですが興奮するそうです。
そのとき、たまたま異性と一緒にいると、脳はその興奮を「恐怖」とは関連づけないで、近くにいる「異性」と関連づけてしまうのだそうです。

「あ、ワタシはこの人に興奮させられている」

と脳が勝手に判断してしまうということ。
本当は足もとが不安定だったり、高いところにいたりすることが原因なのに、近くの異性によって、その興奮がもたらされたと錯誤する。
これが「錯誤帰属」という心理現象です。

だから「高いところ」や「ジェットコースターに乗った後」で女性を口説くと、成功率が高まるというのは、あながちウソでもないのですよ。
本当かな~?と思った人は社会心理学の本でもインターネットでもいいので、「ダットンとアロンの吊り橋の実験」というのを調べてみてください。
有名な実験なので、すぐに調べられるはずです。

もしそういうことがあるのなら、女性を落とせる(女性が錯誤して恋に落ちる可能性が大きい)レストランをつくるのも可能ではないかと思ったわけです。

それはどういうレストランかというと……、

女性と仲良くなれるレストランの環境

まずエントラスは暗くてちょっと深いトンネルになっています。
男性が手を引いてあげやすいきっかけをつくっているのです。
おまけに狭いので、ふたりの距離が自然に近づきます。
ロマンティックな雰囲気を盛り上げるため、トンネルの床には光ファイバーで「天の川」が演出されています。
これからまさに別世界にふたりで入っていくという「体験の共有」を起こしやすくなっているのです。

トンネルを抜けることで、日常と切り離された「別世界」にふたりで入ってきたという無意識の感情が生まれています。
なんだか秘密を共有するような、ちょっとドキドキする感情です。

席はすべてきれいな夜景がぼんやりと見える位置になっています。
ぼんやりというのは屋外の樹木などの隙間から夜景を見せるのです。
ここであまりはっきりと夜景を見せると失敗します。現実に戻ってしまいますからね。

席に着く位置も決まっています。
お互いの膝がちょっと触れるようなレイアウト。
並んで座るようになっているのですが、口説こうと思っている人が左側に座るようにします。
なぜなら人間は「右耳」から入った情報が、感情を刺激しやすいというデータがあるからです。
これは左脳と右脳の関係だそうです。

BGMはラフマニノフやスクリャービンのような官能的なクラシックか、ムーディなスローバラードのモダンジャズ、あるいはブラックコンテンポラリーのちょっとセクシーな曲。
トイレに行く通路には「媚薬」といわれる種類の匂いを演出します。

こういう目的のレストランがあって、クチコミで広がれば、面白いなって思って企画しました。
結構繁盛するんじゃないかなと思っていたのですが、これはオーナーの経済的理由で実現しませんでした。
このプロジェクトは実現しませんでしたが、似たような考え方でプランニングしたお店もあります。
カリビアン料理レストランと、レゲエ等のラテンミュージックをメイン・コンセプトにしたクラブです。このお店の椅子の幅がとてもユニークです。

椅子の幅は70センチ。

なぜそれがユニークだったのか? そのサイズというのは、ものすごく中途半端なサイズなのです。
ひとりでは広すぎるし、ふたり並んで腰掛けるには狭すぎる。
インテリアデザイナーやインダストリアルデザイナーは決して採用しない幅です。

では、どうしてそんな中途半端な椅子を使っていたのでしょう?

「もし椅子の幅が90センチだと、カップルは並んで座ってしまうでしょ。ところが70センチだと並んで座れないから、女の子は男の子の膝の上に乗ってしまうのですよ」
この店のオーナーはそういって、ニコニコしていました。
そうなのです。
実際このお店には、ステキな外国人カップルや遊び人が集い、立ったままお喋りしたり、テーブルからテーブルへクラゲのように移動したり、70センチの椅子にふたりで腰を下ろしてキスしたり身体を寄せ合ったりするお客さまで賑わったのでした。

人間心理を計算に入れた店舗環境をつくる

お店の中でお客さまにどう過ごしてもらいたいかということを明確に考えた上での店舗づくりだったわけです。
認知心理学、社会心理学、深層心理学、動物行動学を駆使して店舗環境を計画していくことも、大事なポイントになってくるのです。

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藤村 正宏
北海道釧路生まれ。明治大学卒。著書「モノを売るな!体験を売れ!」で提唱したエクスペリエンス・マーケティング(通称エクスマ)の創始者。経営者、ビジネスリーダー向けに「エクスマ塾」を実施、塾生はすでに1000名を超えている。著書は、海外にも翻訳され30冊以上出版。座右の銘「遊ばざるもの、働くべからず」

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