モノではなく“物語”を買う時代のマーケティング
出張先の大阪で、ホテルの窓からファミマの看板が見えた朝。
ほんの数百メートル先にセブンがあったのに、僕はファミマのコーヒーを買った。
その瞬間に気づいたんです。
「人は“好きだから”買うとは限らない」
この気づきが、いまの時代のマーケティングを象徴しているように思った。

ある朝、出張で泊まった大阪のホテルの窓から、ファミマの看板が見えたんです。
「ファミマかあ……」って思った。
僕は、セブンのコーヒーが好きなんです。香りも味もちょうどよくて、朝の一杯にぴったり。
でもその日は「ま、いっか」でファミマのコーヒーを買った。
理由?
セブンは500メートル先。ファミマは目の前。
たったそれだけの理由で、好きなブランドを裏切ってしまったんですよね。
そのとき、ふと気づいたんです。
──「コーヒーそのものに、たいした価値ってないんだな」って。
もちろん、味の違いはあります。
でも、今の時代、どこのコーヒーも“そこそこおいしい”。
だから、少しの距離やタイミングで簡単に選ばれなくなる。
これが、いわゆる「コモディティ化」という現象。
(ちなみに、ファミマのコーヒーも美味しかったですよ)
スタバが売っているのは、コーヒーじゃない
でも、そんな中でスターバックスには行きたくなる。
100円そこそこのコンビニコーヒーで十分なはずなのに、なぜ人はスタバに足を運ぶんだろう。
カウンターで名前を呼ばれ、カップを受け取る。
静かなBGMが流れる店内で、MacBookを開き、ラテを片手に仕事をする。
──ちょっと“いい感じの自分”になれる時間。
スタバが売っているのは、コーヒーではなく「物語」なんだろうな。
“自分を少し好きになれる空間”という体験を提供している。
だから、値段ではなく気分で選ばれる。
つまり、もう「モノの時代」ではなく、「感情の時代」に変わったということ。
今の世の中、どんな業種でも“いいもの”を売っています。
どのホテルも快適。どの美容室も技術が高い。どの飲食店も味は安定している。
でも、それだけでは選ばれません。
差を生むのは「関係性」
たとえば、同じTシャツを売っている2つの店があるとして。
ひとつは、無機質なECサイト。
もうひとつは、SNSでいつもユーモラスな投稿をしている店員さんのお店。
あなたなら、どちらで買いたいと思いますか?
きっと後者ですよね。
なぜなら「この人のこと、ちょっと知ってる」から。
そこには“信頼”と“親しみ”という感情があるからです。
北海道の鶴雅では、SNS担当の女性が、毎朝Instagramで“今日のひとこと”を発信しています。
「今朝は阿寒湖の霧がきれいでした」とか、「カメムシが出てきたら季節の変わり目です」とか。
そんな投稿に、常連のお客様が「また行きたくなりました」とコメントをくれる。
そこに生まれているのは、“商品を超えたつながり”。
まさに「関係性のマーケティング」です。
いい商品は、もう当たり前。
でも、あなたの日常や想いを発信することで、そこに“人の温度”が生まれる。
その温度が、誰かの心を動かすんです。
「この人にお願いしたい」
「この人の話をもっと聞きたい」
そんな関係をつくることが、いまのマーケティングの本質です。
エクスマ的に言えば──
売れる理由は「商品」ではなく「人との関係」にある。
あなたの仕事を支えているのは、モノではなく、あなた自身の“物語”なんです。
藤村 正宏
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