アート思考 ビジネスとアート思考:【第3話】リンゴを転がして何十回も描き直した、ある男の執念
油絵の具とテレピン油の独特な匂いが立ち込める部屋で、棚から分厚い画集を引っ張り出してめくっていた日のことを、今でもよく覚えています。僕の父親は、平日は会社員として働きながら、週末は絵筆を握る画家でした。北海道の釧路で「釧路美術協会」の立ち上げメンバーに名を連ねるほど、情熱を注いで絵を描いていた人です。(定年退職後は本物の画家になった)家には父のアトリエがあり、子どもの頃の僕にとって、そこは日常のすぐ隣にある不思議な別世界でした。中学生になったある日、そのアトリエでたまたま開いたのが、ポール・セザンヌの画集でした。名画と呼ばれるその絵を前にして、思春期の僕は心底首をかしげてしまったのです。