スワイプする人と、じっと見つめる人
最近、YouTubeを見ていて、ふと思ったんです。
動画の“長さ”に、はっきりとした分かれ目ができてきたなって。
パパッと終わるショート動画。
じっくり腰を据えて見るロング動画。
そのあいだにあった“8〜10分の中間サイズ”の動画が、今やぐっと減っている。
企業のYouTubeチャンネルでも、
この「二極化」ははっきりしています。
調査によると、人気の企業チャンネルのうち、
「8〜10分」の動画は、全体のわずか6%。
「4分未満」が約44%、
そして「16分以上」の長尺が32%。
——まさに“真ん中がスカスカ”な状態です。
でも、これってすごく自然なことなのかもしれません。
短い動画は、電車の中でも、昼休みのすきまでも観られる。
長い動画は、夜、テレビの大きな画面で、家族といっしょに観ることもある。
人の「まなざし」が、
スマホとテレビのあいだで、うまく住み分けてきてるんです。
タイパの目と、深掘りの目
この“まなざしのちがい”は、世代によってもくっきりと表れてきます。
たとえば、Z世代。
彼らの視線は、スピードに敏感です。
「知りたいことを1分で教えて」
「面白いのは最初の5秒で決める」
そんなふうに“タイムパフォーマンス(タイパ)”を重視する。
実際、Z世代の約7割が「ショート動画が自分の購買行動に影響を与えている」と答えている調査もあります。
エンタメ性のある動画が、買い物のきっかけになっているわけです。
一方で、シニア世代は真逆です。
「長くていいから、ちゃんと知りたい」
「専門家の話を、きちんと聞きたい」
というニーズが強い。
特に70代は、“役に立つ情報”や“信頼できる話”をYouTubeでじっくり探しています。
しかも、AIのおすすめではなく、自分の意志で検索して動画を選ぶ。
つまり、若い世代の“気分”と、
シニアの“意志”では、動画の向き合い方がまったく違う。
その違いに気づくことが、
企業チャンネルの発信において、とても大切になってきているんです。
ふたつの椅子を、ちゃんと用意しよう
企業が動画をつくるとき、
「たくさんの人に知ってもらいたい」という気持ちは自然なこと。
でも、その先にあるのは、
「ちゃんと理解してもらいたい」「好きになってもらいたい」という思い。
そのためには、
スワイプする人のための“入り口”と、
じっと見つめる人のための“縁側”を、両方用意しておくこと。
短い動画は、入口。
長い動画は、関係を深める場所。
たとえば、
1分のショート動画で「へえ〜」と興味を持ってもらって、
10分以上のドキュメンタリーで「この会社、好きだな」と思ってもらう。
そんなふうに“まなざし”の温度に合わせた物語を用意することで、
YouTubeは単なる広告枠から、「伝える場所」「育てる場」になっていきます。
物語は、まなざしから始まる
短くても、伝えられることはある。
長くても、飽きさせないことはできる。
正解はひとつじゃない。
むしろ、“両方あること”が、これからの企業の強みになる。
あなたの会社のYouTubeには、
ふたつのまなざしを受け止める“物語”があるでしょうか?
たった1分でも心に残る動画と、
じっくり観て、好きになってもらえる動画と。
それぞれのまなざしに、ちゃんと応えること。
それが、これからのコンテンツの「やさしさ」なのかもしれません。

藤村 正宏

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