
完璧な計画を捨てて、偶然と「アクション」を味方につける
以前、アメリカのアクション映画を観ていたとき、思わず膝を打って笑ってしまったシーンがありました。
札束や金塊が詰まっているに違いないと、鼻息荒くトラックの荷台へ忍び込んだ男たち。
ところが、金庫や箱をあさっても、期待していた何十億もの現金束はどこにも見当たらない。
荷台の片隅に転がっていたのは、木枠から外され、無造作にぐるぐると丸められただけの、埃まみれの古びたキャンバスでした。
それを見た登場人物が、悔し紛れにこう叫ぶのです。
「クソッ、何も入ってねえじゃないか!」
でも、画面を観ているこちらは思わずニヤリとしてしまいます。
彼らが「価値のないゴミ」として放り投げたその丸められたキャンバスこそ、まさにジャクソン・ポロックの真作。オークションに出せば100億、200億円という途方もない値がつく、札束の山よりも遥かに価値のある宝物だったのです。
アートの文脈や価値を知らない人間から見れば、それはただ「キャンバスの上にペンキを撒き散らして汚しただけ」の布切れにしか見えません。
なんか記憶が曖昧なんだけど、そんなような内容だったと思う。
実際、ポロックがこの絵を世に出した当時も、批評家たちから「ジャック・ザ・ドリッパー(滴らし屋ジャック)」と揶揄され、「ただの偶然の産物だ」「幼稚園児でもできる」と散々に叩かれました。
けれど、ポロックがアトリエの床の上で繰り広げたその行為は、美術の世界における「絵画」という概念を根本からひっくり返す大事件だったのです。
イーゼルを捨て、キャンバスの中に「入る」
第二次世界大戦後のニューヨーク。
ジャクソン・ポロックは、何百年も続いてきた絵画のスタイルを完全に捨て去りました。
彼はキャンバスをイーゼル(画架)に立てかけるのをやめ、巨大な布をそのままアトリエの「床の上」に広げました。
そして絵筆でキャンバスに触れることすらやめてしまった。
手に持ったのは、穴の空いたペンキ缶や棒切れ、硬い刷毛。
希釈したエナメル塗料をキャンバスの上から滴り落ちるままに垂らし(ドリップ)、腕全体を使って激しく振り撒く(ポーリング)。
キャンバスの周囲を、まるで儀式のダンスを踊るかのようにぐるぐると歩き回り、時には絵の中に足を踏み入れながら、四方八方から全身全霊で絵の具を浴びせかけていく。
これが、のちに「アクション・ペインティング」と呼ばれる表現です。
ポロックはこう語っています。
「床の上にいるとき、私はよりリラックスできる。絵画をより身近に感じ、完全にその一部になれる。四方を歩き回り、文字通り絵画の『中』に入り込んで制作できるからだ」
そこには、事前の下書きも、完成予想図もありません。
絵の具の粘度、重力、腕を振るスピード、遠心力――。
自分が意図したコントロールと、コントロールを超えた「偶然の軌跡」が幾重にも重なり合い、キャンバス一面にエネルギーの網の目を編み上げていく。
ポロックが提示したのは、完成した「絵」そのもの以上に、「人間が全身の身体を使って、キャンバスと格闘したアクション(行為)の痕跡そのもの」だったのです。
「机の上の完璧な計画」に縛られていませんか?
映画の強盗たちがポロックのキャンバスを「ただの汚れ」と見誤ったように、僕たちのビジネスの世界でも、目に見えるわかりやすい数字や形ばかりを追いかけていないでしょうか。
そして何より、「最初から完璧な完成図(計画書)を描こうとしすぎて、一歩も動けなくなっていないか?」ということです。
失敗しないための綿密な事業計画書を何ヶ月もかけて練り上げる
予測不能なリスクをすべて机上で潰そうとして、会議ばかりを繰り返す
「もう少しデータが集まってから」「完璧に準備が整ってから」と、スタートを先延ばしにする
もちろん、ビジネスにおいて計画や見通しは大切です。
けれど、先が見えない「正解のない時代」において、机の上でいくら頭をひねって描いた予定調和の計画なんて、現場の風がひと吹きしただけで簡単に吹き飛んでしまいます。
どれほど綺麗に整えられた計画書も、行動が伴わなければ、映画の悪党たちにとっての「空っぽの荷台」と同じです。
身体を動かし、「偶然」を味方につける
ポロックは、頭の中で完璧な完成図を思い描いてから絵の具を垂らしたわけではありませんでした。
まず身体を動かし、ペンキを撒き散らし、キャンバスの上で起きた「予期せぬ絵の具の跳ねや滲み(偶然)」に応答しながら、次のアクションを重ねていったのです。
ビジネスを面白く動かしていく秘訣も、まったく同じです。
机の上でうなり続けるのをやめて、まずは小さな試作や発信を世の中に放り出してみる。予期せぬお客さんの反応や、思いがけないトラブルといった「ノイズ」を面白がり、それをきっかけに軌道修正していく。
頭でっかちな理屈ではなく、現場に飛び込んで全身で汗をかきながら、身体感覚で次の一手を決める。
事前に100%コントロールしようとするのを手放したとき、あなたのビジネスには「偶然の出会い」や「予想外のブレイクスルー」という、強力な追い風が吹き始めます。
価値のわからない人には「ただの行き当たりばったり」に見えるかもしれません。
けれど、全身で現場と格闘し、泥臭く動き回ったあなたの「アクションの痕跡」こそが、誰にも真似できない生きたエネルギーとなって、人の心を激しく揺さぶるのです。
イーゼルを倒し、床の上に飛び出しましょう。
正解をなぞる退屈な計画を捨てたその瞬間から、あなただけのダイナミックなビジネスが動き出します。
- 次回予告:第14話『気の遠くなるような無数の点で、奇跡の光を描いたスーラ』
藤村 正宏
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