エクスマ思考 子どものころ食品サンプルは“夢の国”だった|食品サンプルを巡るマーケティング的考察
「最初に食品サンプルを食堂に並べたのは、どこだったんだろう?」そんな素朴な問いから、ふと昔の情景がよみがえります。あの頃(5~60年前)のスパゲティといえば、ほとんど二択でした。ナポリタンか、ミートソース。しかも主役は、母が作ってくれるいつもナポリタンで、ミートソースは“たまに会える特別なひと”。ひと月かふた月に一度、母が連れて行ってくれたデパートの食堂。そこで僕はようやく、ミートソースさまにお目にかかれたのです。子どもにとっては、まるで王様に会うような気分だった。食堂の入口に並んだ食品サンプルのウインドウは、いわば“夢の国”。フォークがスパゲティをからめたまま宙に浮かんでいる。光を浴びて、湯気まで立っていそうなリアルさに、僕はただただ見とれていました。「すげ〜……」それが、子どもだった僕の素直なつぶやき。この国の“目で食べる文化”は、こんなふうに幼い感性を震わせてきたんだと思います。