人を“ねらう”と、関係は壊れる|ターゲットという言葉から感じる冷たい「違和感」

人々を獲物にする思想

「ターゲットは誰ですか?」
マーケティングの現場では、最初に出る言葉だ。
空気のように自然に。疑問すら持たずに。

「20代の女性をターゲットに」
「地方に住む高齢者を狙って」
「ファミリー層を取りにいきましょう」

言ってる本人たちは、きっと何も疑問を持たないのかもしれない。

でもぼくは、この言葉に、ずっとある種の「違和感」を感じていた。
その言葉には、どこか冷たく、恐ろしい、「戦い」のにおいがする。

「ターゲット」。直訳すれば、「標的」。

つまり、人を“的”として見ているということだ。
売上を上げるために、行動を予測し、感情を刺激し、最適なタイミングで仕掛けて“当てる”。
それはもう、ほとんど狩猟のメソッドに近い。

そんな恐ろしい言葉を、何の疑問を持たずに、あたかも正しいこととして、長年積極的に使われてきたところに、従来のマーケティングの「いびつさ」がある。

よく考えてみてほしい。

戦争用語だとしたら、“ねらいを定めて撃つ”という意味になる。
マーケティングが、いつのまにか「狙撃」になってしまったみたいに思える。
あなたが“ねらわれている”と知ったら、どう思うだろう?
獲物として狩られる対象だ。

親切そうな笑顔の奥に、
「この人はターゲットだから」というラベルが貼ってあったとしたら。
その瞬間、関係は終わる。信頼は消える。
どれだけ美しいパッケージでも、その奥にある冷たさは伝わってしまうものだ。

本来、商売というのはもっと人間的な行為だった。
たとえば、小さなパン屋が、朝焼いたクロワッサンを
「この味が、誰かの朝を少しだけよくしてくれたら」
と願って並べるような、そんな営みだった。
誰かがふらっと来て、手にとって、「おいしかった」と言ってくれる。
そこには“当てた”でも“誘導した”でもなく、ただ、気持ちが通じ合った事実だけがある。

僕らはほんとうは、そんなに戦う必要なんてないはずだ

小さな雑貨屋が、好きな器を並べる。
「これ、誰かが気に入ってくれたらいいな」
そう願いながら棚に並べた器が、ある日、訪れた誰かの目にとまり、手に取られ、ほんの小さな笑顔が生まれる。

それって「当たった」んじゃない。
「通じ合った」んだと思う。

商売の基本は「関係性」だ。

近づいたり、離れたりしながら、でも少しずつ、ふたつの心の距離が縮まっていく。
「また来ますね」と言ってもらえるその一言が、なによりもうれしい報酬になる。

だから、「誰を狙うか」じゃなくて、「誰とつながりたいか」で考えるほうがいい。
人を“ねらう”という発想は、その出発点からして、もう間違っている。
ほんとうに伝えたいのなら、相手を見下ろすのではなく、同じ目線に立つことだ。
“どんな人と関係を育てたいか”という問いに、どれだけ本気で向き合えるかだ。

マーケティングは「人間操作」ではなく、「人間理解」であるべきだ。
“刺さる言葉”より、“沁みる関係”。
“売れる設計”より、“また会いたいと思われる在り方”。

もう一度言う。
人をねらうな。
心を、通わせろ。

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北海道釧路生まれ。明治大学卒。著書「モノを売るな!体験を売れ!」で提唱したエクスペリエンス・マーケティング(通称エクスマ)の創始者。経営者、ビジネスリーダー向けに「エクスマ塾」を実施、塾生はすでに1000名を超えている。著書は、海外にも翻訳され30冊以上出版。座右の銘「遊ばざるもの、働くべからず」
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